【声明】「産む/産まない」を「<女>の価値」として語るな!
第27回参議院議員選挙は、極右勢力が街頭で他人種・他民族・外国籍の者に対する差別、病者差別、発達障害者差別、女性差別、性的少数者差別と、ありとあらゆる差別を扇動し、人々を自民族中心主義の愚へと駆り立てる、異様な様相を呈した。
特に「日本人ファースト」なる言葉を弄して差別扇動を行なった極右、参政党代表・神谷宗幣は3日「高齢の女性は子どもを産めない」(註1)と発言。
それに対し、6日には横浜市・桜木町駅前にて「女の価値を産む産まないで決めるな」とのスローガンで抗議の街頭集会が開催される。この取り組みは、その後も「 参政党神谷代表発言に抗議する緊急アクション 」として呼びかけられ、全国各地で続々と抗議が行われた。(註2)
我々はこの行動の趣旨に共鳴しつつ、しかし同時に、ここに現れた問題をさらに更に徹底して抉り出し、それと対決する必要があると考えた。
すなわち、参政党・神谷宗幣による発言は、個人の性を生殖に結びつけ管理し、抑圧しようとする家父長制の思想そのものであること。
この差別の命脈を断つには、それに真正面から取り組む必要があること。
問題を正しく認識するためにも、特にフェミニズムの運動においては、近時まだ記憶に新しいフェミブリッジによる差別発言について、本件と同様の厳粛さをもって臨むべきであること。
にも拘らず、未だ「男が産めるのうんこだけ」なる発言は、本人たちによる撤回はおろか、各友誼諸団体や言論人によって公に問題を指摘されることすらされていないこと。
以上を総ずればつまり、フェミニズム運動におけるこの、シスジェンダー中心主義の誤りを剔抉することなしには、極右ファシスト・セクシストの公然展開という事態を解決することはできない。
そう、考えたのである。
私達は残る選挙期間中、この「 参政党神谷代表発言に抗議する緊急アクション 」の現場に赴き、ともにファシスト参政党に対する抗議の声をあげることにした。
およそ一週間の間に都内近郊、計8ヶ所の抗議活動に参加(註3)。作成したバナーを広げ、極右参政党の思想と、「男が産めるのうんこだけ」発言にあるそれが、全く同種の性差別であるとの考えを世に訴えた。
また、7月19日、越谷で行われた街頭集会では、スピーチの機会を得て演説を行った。
下記は、そのスピーチ原稿である。(実際に話した内容と逐一同じではないが、内容は概ね一致している。)
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このスピーチの内容について、補足する。
我々が神谷宗幣の発言の実際を認識したのは、行動に足を運ぶようになってから相当の後、選挙も終わりに近づいてのことだった。
我々は、「女の価値を産む産まないで決めるな」というスローガンにシスジェンダー中心主義の気配を感じつつ、しかしそのことの問題、参政党に対する批判の不十分性を、正面切って問題であると訴えなかった。
だが実際には、神谷宗幣は単に「高齢の女性は子どもを産めない」とだけ述べたのではなかった。むしろより”正しく”セクシストとして、「男性や、申し訳ないけど高齢の女性は子どもを産めない」と述べたのであった。
この神谷の発した「男性や」の言葉を、聞き落としてはいけない。少なくとも、それを「女性差別」の問題として
”のみ” 語ることは別の差別を人権にファーストもセカンドもない」(註4)と言う言葉を、根底から裏切るものとして正当化するものである。
「女の価値を産む産まないで決めるな」との文句を運動のメインスローガンとして掲げることはその意味で、参政党が撒いた差別の毒性を更に強める結果になったことを、指摘しないわけにはいかない。(註5)
当初の己の認識不足を、悔いる。

しかし一方、仮に当初から、我々が神谷発言の実際を正しく認識していたとしても、この行動に参加するという選択を回避することはしなかっただろう。
極めて広範に繁茂するシスジェンダリズムを解体していくためには、その毒を喰らいながら、しかし茂みの中へと分け入り、茂みの中で呼吸し、考えなくてはならない。
我々はシスジェンダリズムの問題を、シスジェンダリズムの言葉を使わずには、語ることができない。
ただ、もし神谷発言の実際を当初から正しく認識していたならば、より確固たる決意をもって、フェミニズ運動におけるシスジェンダー中心主義の問題を、この行動に集まった人々に対して説くことができたのではないか、とは考える。(註7)
曰く、「女の価値を産む産まないで決めるな」というテーゼもまた同じくーーむしろファシストより巧妙に、予め男性トランスジェンダーを抹消していることを。
「産む産まない」ことを「「女の価値」の問題としてのみ語ることで、女性トランスジェンダーの尊厳を棄損していることを。
ノンバイナリーを、更なる窮地に追い立てていることを。
「女の価値を産む産まないで決めるな」というスローガンは、少なくともそれ単独で、メインに掲げられるべきものではなかった。(註8)
そして、やはりこの点においても、「男が産めるのうんこだけ」というメッセージが、正しく性差別の発言であることの認識が共有されなければならず、フェミニスト足らんとする者は、フェミブリッジのこの差別発言に対して、厳しく自己批判を求めるべきであると、我々は考える。
極右参政党を増長させているのは、個人の性を生殖と結びつけることからの決別を徹底できない、日本フェミニズムの未熟の問題でもある。
ファシズムの跳梁跋扈を前に、シスジェンダー中心主義の転換を果たさなければならない。
一刻も早い、シスジェンダリズムとの決別を!
註1 後述するが、ここで示した神谷宗幣の「高齢の女性は子どもを産めない」との発言は正確とは言えない。下の共同通信の記事本文(見出しではなく)には、そのことが正確に書かれている。また、NHKの記事では、演説の全文と動画(問題の発言部分は9分30秒〜)が掲載されている。より短い動画は、毎日新聞が配信している。
■「高齢女性は子ども産めない」 参政党代表、第一声で発言(共同通信、2025年7月3日)
■【演説全文】参政 神谷氏 “日本人ファーストで”(NHK、2025年7月4日)
■参政党・神谷代表「高齢の女性は子ども産めない」公示第一声で言及(毎日新聞、2025年7月3日)
註2 桜木町での街頭集会は、武井由起子弁護士等によって主催。太田啓子弁護士は、全国の行動情報を整理し、盛んに発信を行なった。
■参政党代表の「高齢女性は子ども産めない」発言に抗議 市民らが集会(2025年7月7日、毎日新聞)
註3 期間中に参加した行動は、以下の通りである。
15日(火)中野
16日(水)新宿 ※
17日(木)阿佐ヶ谷
19日(土)越谷
※第3回となる「私のからだデモ」はこの日新宿で、「緊急 #人権ファーストデモ」として、「参政党神谷代表に抗議する緊急アクション」に連帯して開催された。
註4「人権にファーストもセカンドもない」という言葉はこの期間、参政党に反対するスローガンとして盛んに用いられた。
註5 ここにはメディアの問題もある(註9)。本件については、ほとんどのメディアが見出しにおいて、あるいは記事本文においでてすら、「高齢の女性は子どもを産めない」と報道を行なった。例えば2025年7月3日付にて、朝日新聞は、以下のように報じている。
■参政党の神谷代表「高齢女性は子ども産めない」 公示第一声で発言(朝日新聞、2025年7月3日)
だが、仮に神谷発言の実際を正しく認識することができなかったとしても、やはり「女の価値を産む産まないで決めるな」を単独にメインスローガンとすることの問題性を認識することはできたはずだ。報道の姿勢は批判されて然るべきであるが、そのことをもって運動の誤りが全て免責されるとは考えない。
註6 画像は「参政党神谷代表発言に抗議する緊急アクション 女の価値を産む産まないで決めるな」(@sanseitouhantai)より。スピーチ原稿で触れられている、日本国憲法第14条の条文を掲げたデザインのプラカードも見える。
註7 7月18日に阿佐ヶ谷で行われた街頭集会においてバナーを設営したところ、主催者であるという「日本新婦人の会」より、バナーにある “「男が産めるのうんこだけ」発言に抗議する” との記載部分を隠すか、さもなければ、設営したバナーを畳むことを求められ、バナーにあるメッセージを掲げた状態で行動を共にすることを拒否された。理由として伝えられたのは、概ね以下のようなものであった。
1、本日の行動の趣旨は「参政党神谷代表発言に抗議する」というものであり、その点バナーにあるメッセージ、特に「男が産めるのうんこだけ」という一文は、そこから逸脱するものであること。
2、行動の趣旨から逸脱したものについて責任を負うことはできず、それについて他の誰かから咎められたり、誤解を受けることは迷惑であること。
当会は、応対した二名に対し、①の主張については、その見解を是認できないことを申し伝え「男が産めるのうんこだけ」発言が、参政党の差別発言と同種同根のものであることを主張し説得を試みたが、受け入れられなかった。②に関しては、その主張に理を認め、その場を後にし、少し離れたところに移動の上、再度バナーを設置しアピールを行なった。
註8 こうした趣旨からか、SNS上では「#人間の価値を産む産まないで決めるな」というメッセージを発信する者も観測された。
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註9 メディアの問題については後日、下記の記事を新たに作成した。(2025年7月30日追記)