<消された>トランスジェンダー  神谷宗幣(参政党)性差別発言 報道を検証する

新聞記事のスクラップ。2025年7月4日の朝日、読売、東京、毎日、日経新聞の記事の記事が切り抜かれて貼られている。
神谷(参政党)による性差別発言を伝える在京各紙


「高齢女性は子どもが産めない」

第27回参議院選挙の告示日となった7月3日。男女共同参画への批判を伴って行われた参政党代表・神谷宗幣による街頭演説は、性と生殖の権利(SRHR : Sexual and Reproductive Health and Rights)を軽視する女性差別であるとして多くの批判を呼び、その後の選挙期間中も、各地で抗議行動が呼びかけられる事態となった。

これらの運動にみられるシスジェンダー中心主義とトランスジェンダー透明化の誤りについては、既に指摘した。

【声明】「産む/産まない」を「<女>の価値」として語るな!

この記事では抗議運動の問題とは別に、本件におけるメディア報道を検証したい。


「男性」を脱落させ、<女性>差別へと焦点化した各社報道

本件報道においては、各社とも「高齢女性は子どもが産めない」との発言に着目。結果としてほぼ全ての報道機関が、この発言をそのまま見出しに採用して報じる結果となった。

画面トップに示した画像は、神谷の性差別発言を伝える在京各紙の紙面記事(いずれも7月4日付)を集めたものである。読売と日経はベタ記事の扱いであるが、各社とも「高齢女性は子どもが産めない」との発言部分を、直接見出しに採用しているのが見て取れる。

だが、神谷が「子どもが産めない」と言い放ったのは、実際には「高齢女性」についてだけではなかった。

以下に、神谷の実際の発言部分を文字に起こしたものを紹介する。(下線による強調は引用者。註1


“子どもを産めるのも若い女性しかいないわけですよ。

これ言うと差別だという人がいますけど違います。

現実です。

いいですか、男性や、申し訳ないけど、高齢の女性は子どもが産めない。”(神谷宗幣・参政党代表、2025.7.3


ここでは神谷及び参政党の思想に充満するシスジェンダー中心主義が、明け透けに表明されている。神谷は、はっきりと「男性や高齢の女性は子どもが産めない」と述べたのである。

だがメディアはこの発言の問題性を、個人の性と生殖の権利(SRHR)に対する侵害の問題として正しく伝えることがなかった。それは実に<女性>差別の問題として焦点化されたのである。

下記の図表は、本件報道における在京各紙・各テレビ局、および通信二社が配信したweb上の記事の見出しと本文について、その記述の状況をまとめたものである。(註2


図表。縦軸に書く報道機関、横軸に、左から「記事本文における「男性」の語の記載」、「見出し」と項目が並ぶ。
在京 各報道機関おける神谷 性差別発言の報道の仕方


のべ18記事、13報道機関の記事を調査したが、まず見出しについては、「男性」と記載されている記事は皆無であり、その内容は、いづれも「高齢の女性は子どもが産めない」と発言したことを伝えるものだった。(註3

一方、記事本文を見れば、「男性や高齢の女性は子どもが産めない」と、発言部分を正しく伝えるものも多数あった。

見出し・記事本文ともに、性差別発言の対象を「高齢女性」とのみ報じたメディアは、NHK、テレビ朝日、朝日新聞、日経新聞、時事通信の五社であった。(註4註5


報道によって増幅されるシスジェンダー中心主義

改めて確認するが、そもそも参政党代表・神谷宗幣の発言こそは、トランスジェンダーを差別するものだ。

神谷による「男性や高齢の女性は子どもが産めない」との発言は、


①全く個人に属する領分であるはずのところの性と生殖の権利(SRHR)を軽視し、

②女性性をもっぱら生殖に従属させ、管理しようとする企みに基づいており、

③男性トランスジェンダーの存在を抹消する


ものであるからだ。(註6

しかし、この発言の誤りに対してメディアが行ったのは、単に「<女性>差別」を対置することだった。(註7

それはせいぜい、②の(それも不十分な)指摘に留まるものであり、また、むしろそこで遂行されているのは、神谷発言に輪をかけたシスジェンダー中心主義の強化であり、トランスジェンダーの透明化である、とさえ言えるだろう。

「男性や高齢の女性は子どもが産めない」と述べた神谷宗幣の発言を、「高齢女性は子どもを産めない」と報じたマスメディアの姿勢は、シスジェンダリズムの毒によって偏向させられていると言わざるを得ない。シスジェンダー中心主義の強化とトランスジェンダー排除という視点からこの発言の問題を眺めてみるならば、参政党および神谷宗幣とマスメディアは、全くの共犯的関係にある。


すべての人の「性と生殖の権利」の実現を!シスジェンダー中心主義的な報道姿勢の転換を!

しかしそれでも——仮にリード文ではシスジェンダー中心主義に基づくトランスジェンダーの透明化が行われていたとしても——記事本文において発言の実際が真正に伝えられていたならば、(注意深い読者は)そこにある見出しとの差を認識し、神谷発言の問題が奈辺にあるのかについて、その所在を正しく知ることが——狭い道筋ではあるだろうが——可能であるかもしれない。

だが、その語が——実際に発せられた(!)その語が——記事本文にすら存在することを許されないのだとするならば。

一体トランスジェンダーやノンバイナリーの性と生殖の権利(SRHR)はどこで、誰に語ることが可能になるのか?

この点において、リード文においては元より、記事本文においてすら、発言の実際を歪めて伝えたNHK、テレビ朝日、朝日新聞、日経新聞、時事通信の五社(紙面記事においては、さらに毎日新聞(註5))の責任は、重い。


神谷宗幣の発言は、個人の性と生殖の権利(SRHR)を否定する、許し難い性差別である。

また、これを「高齢女性は子ども産めない」と、その発言を「<女性>差別」の問題だけに矮小化してなされた報道は、メディアにおけるシスジェンダー中心主義的偏向を明らかにするものだ。

これでは日本のメディア報道は、参政党に見られる性差別について、正鵠を射る批判を加えることはできないだろう。

私たちは、性と生殖を結びつけるシスジェンダリズムの誤りを克服し、性と生殖の権利(SRHR)を、個人の尊厳を保持させるための土台として、正しく理解しなければならない。そのことに、マスメディアが果たすべき役割は重大である。

神谷による性差別発言は、社会に当たり前のように蔓延るトランスジェンダー排除の実態と、それを批判する者たちのシスジェンダー中心主義を、改めて白日の下に曝す事件となった。しかし果たしてこの<白昼堂々と行われた犯行>をメディアが事実として認識し、報道する日は訪れるだろうか?

報道の自由と自律が、試されている。

トランスジェンダーを、消すな。



註1

下記より引用。

【演説全文】参政 神谷氏 “日本人ファーストで”(NHK,2025年7月4日 14時30分)


註2
各テレビ局による、地上波などでのニュース報道が実際にどのようなものであったのかについては、資料を揃えることができず、検証を断念した。また、テレビ東京および TOKYO MX については、公式サイトに本件調査を行うための充分なニュース検索機能が装備されていなかったため、集計の対象から除外した。


註3

以下の産経新聞の記事の場合は、そもそも見出しに、本件について言及する語句が見当たらない。(記事本文には”「男性や、申し訳ないが、高齢の女性は子供は産めない」と指摘。”との記述あり。)記事は問題の発言直後の7月3日13時51分の配信であることを併せて考えると、これは神谷の性差別発言を伝えるというよりは、本演説全般について報じた記事と見るべきかもしれない。

「キャスチングボート握る」参政・神谷宗幣代表が参院選第一声「一番大きな減税行う」(産経新聞、2025年7月3日13時51分)


註4

NHKは、問題の差別発言があった翌日の7月4日、神谷演説の全文と動画全編を、本件調査において集計対象とした記事とは別に配信している。しかし、この演説の全文を掲載したものは、記事というよりは記録と呼ぶべきものであり、事実にニュース性を加味して伝える行為としての報道とは、いささか性格を異にするものと考える。よって、集計対象からは除外した。

【演説全文】参政 神谷氏 “日本人ファーストで”(NHK,2025年7月4日 14時30分)


註5

紙面記事においては、本文において「男性や」との発言部分を脱落させずに掲載しているのは東京、読売の二紙。朝日、毎日、日経は、リード文と共に記事本文においても、上記部分を脱落させて報じている。産経新聞については、該当する紙面記事を確認できなかった(web記事は確認された)。なお、毎日新聞については、紙面記事の本文では脱落させる一方、web記事の本文では掲載と、異なる対応が見られた。各紙の紙面記事における記載状況については、下記の表も参考にされたい。

新聞各社の紙面における「男性や」の語の掲載状況を表す表。縦軸に各新聞社名、横軸に、左から「見出し」、「本文」の項目。本文についての記載が「なし」の朝日、毎日、日経はオレンジ色。本文についての記載が「あり」の読売、毎日はブルー。産経は記載がないので、灰色。
新聞各社の紙面における「男性や」の語の掲載状況


註6

件の演説において、神谷は以下のようにも述べている。

【演説全文】参政 神谷氏 “日本人ファーストで”(NHK,2025年7月4日 14時30分)

“われわれは自公政権の政策にはノーです。しかし、選択的夫婦別姓とか、LGBTとか、そういうイデオロギーの絡んだ共産党や立憲民主党の政策にもノーです。”


註7

神谷発言は男性トランスジェンダーの存在を直接に抹消しているが、同時にそれは女性トランスジェンダーの存在を、その根本から否定しているということについても、見落とされるべきではない。また、メディアが(さらには運動が)これを単に「<女性>差別」の問題として切り出したことは、同じく「子どもが産めない」ことの抑圧の下に置かれている女性トランスジェンダーの窮状をより一層過酷なものにしていることを、看過してはいけない。


参照記事


集計対象としたweb記事は、以下のとおり。

   ■参政党の神谷代表「高齢女性は子ども産めない」 公示第一声で発言(朝日新聞)

   ■参政党の神谷代表「申し訳ないけど高齢の女性は子ども産めない」「『働け』とやり過ぎちゃった」(読売新聞)

   ■参政党の神谷代表「高齢の女性は子ども産めない」 公示第一声で言及(毎日新聞)

   ■参政党・神谷宗幣代表「高齢女性は子ども産めない」 少子化対策巡り(日経新聞)

   ■「キャスチングボート握る」参政・神谷宗幣代表が参院選第一声「一番大きな減税行う」(産経新聞)

   ■「60、70代は難しい」と真意説明も…参政・神谷氏「高齢女性は子供産めない」発言物議(産経新聞)

   ■参政党・神谷宗幣代表「高齢の女性は子どもが産めない」と発言 公式YouTubeが33秒間視聴不可に…内容は(東京新聞)

   ■【速報】参政代表、高齢女性は子ども産めないと発言(共同通信)

   ■「高齢女性は子ども産めない」 参政党代表、第一声で発言(共同通信)

   ■神谷氏「そんなに差別なのか」 高齢女性は子ども産めない発言で(共同通信)

   ■「高齢女性は子ども産めず」 参政代表【25参院選】(時事通信)

   ■高齢女性は子ども産めず」参政代表【25参院選】(時事通信)

   ■参政 神谷代表“高齢女性は子ども産めない”発言の趣旨説明(NHK)

   ■参政・神谷代表「高齢女性は子ども産めない」街頭演説で発言(日本テレビ)

   ■参政・神谷代表「高齢女性は子ども産めない」 参院選第一声の街頭演説で発言(テレビ朝日)

   ■参政党・神谷代表「高齢の女性は子どもが産めない」 参院選の第一声で(TBS)

   ■【参院選】問われる少子化対策・教育への各党の主張は…参政党・神谷宗幣代表の「高齢の女性は子ども産めない」街頭演説に波紋も(フジテレビ)


このブログの人気の投稿

【時系列・まとめ】日本女性学会・2024年度大会の分科会をめぐる出来事

集会のお知らせ(2025年5月24日開催) 「日本女性学会 2024 年大会 分科会 調査報告書 」を読む

【声明】トランス差別を許さない、真に解放された女性学研究の場を!〜日本女性学会2025年大会に際して〜